ローソンの業務改革を支える次世代システム「ローソン3.0」とは

 アメリカ・オハイオ州に住むJ.J.ローソン氏が1939年に開店した牛乳販売店(Lawsons)は、そのおいしさが評判となり大いに繁盛したという。

 その社名とミルク缶のトレードマークを引き継ぎ、1975年6月に大阪府豊中市に日本での第1号店を開店したローソンは、現在コンビニエンスストアの「ローソン」を始めとして、「ナチュラルローソン」、「ローソンストア100」、「ローソンプラス」(ローソンの生鮮強化型ハイブリッド店)など客層に合わせたフォーマットを活用し、地域のニーズに合せた出店・改装を推進しつつある。

 2009年2月28日現在、ローソン・ナチュラルローソン合せて約8602店舗、昨年9月に連結子会社になった九九プラスの「ローソンストア100」「SHOP99」を含めると47都道府県で9527店舗となり、1日平均800〜900万人の顧客に利用されている。

 3月末に予定していた「am/pm」を展開するエーエム・ピーエム・ジャパンの全株式および債権の譲渡契約は頓挫した形となったが、CSV各社とも既存店売上高が好調に推移するとともに、taspo(たばこ自動販売機用の成人識別ICカード)の稼働開始に伴う来店客数の増加やATMの手数料収入の増加などが増え、2009年2月期の営業収入は3494億7600万円(前年同期比16%増)、営業利益が491億円(前期比105.5%増)となった。

 また、マイローソンポイントやローソンパス(Lパス)という独自のロイヤリティマーケティングが浸透。カード会員の利用率は売上ベースで14%となっている。

●データは主観的ではなく客観的に活用すべき

 ローソンには、POSデータの購買履歴や会員の特性データなどが豊富に存在し、コンビニ業界では代表取締役社長CEOである新浪剛史氏が次々に打ち出す事業戦略でイノベーションリーダーのイメージが強いが、目下の課題は、2000年頃からを境に出店数の伸びの鈍化に伴い売上も鈍化傾向にあることだ。

 しかし、情報の分析力を駆使することで売り上げ、利益とも伸びる可能性は大きいと語るのはローソンの常務執行役員CIOでITステーションのディレクターを務める横溝陽一氏だ。2009年5月14日に開催された「第14回データウェアハウス&CRM EXPO」の基調講演で、ローソンの次世代ITシステムと業務改革を解説した同氏は、「日々集まる膨大なデータを利用しきれているかといえば、まだまだ取り組むべき余地はある」としながらも、今後もIT強化による業務改革を推し進める意志を示す。

 三菱商事出身でi2テクノロジーズ・ジャパンの社長も務め、2年前にローソンのCIOに着任した横溝氏は、それまで「PRiSM」と呼ばれていた店舗システムを再定義し、次世代の本部系システムと店舗系システムを「ローソン3.0」と名付け、それを使った業務改革をPRiSMとした。

 情報分析力を武器とする企業を目指すという横溝氏は「コンビニには日々膨大なデータが集まってくる。それを見える化して科学的かつ客観的に情報を活用していく」と説明。多くの企業は自社の業務を正当化するため情報を主観的に利用しているが、ローソンはフランチャイズビジネスのため、蓄積する膨大な情報を科学的なデータに加工し、客観的次のアクションに結びつけることで、顧客はもちろん、フランチャイズオーナーや社員、クルーからも選ばれるローソンになるのだという。

 この、“情報分析力を武器とする”と選ばれるローソンに横溝氏は何度もこだわる。

●目指すは廃棄ロスと販売機会ロスの撲滅

 PRiSMによる業務改革とは、店舗と本部の双方が従来のやり方や常識を否定し、顧客基点の発注と品揃えをするためにイニシアティブをとり、商品の廃棄ロスと販売機会ロスの2大ロスの削減を目指すこと。それを支えるIT基盤がローソン3.0となる。また、現状の縦割り組織を情報を軸にして横串を通すかが課題だという。そのため、10年来使用してきたLotus Notes/Dominoを捨て、ユニファイドコミュニケーション型のソリューションで本部の情報基盤を再構築した。

 そして、それらの要となるが、本部集約型の情報分析機能を担う「インテリジェンス・コンピテンシー・センター」(ICC)である。ローソンには、本部と 7支社に1000人のスパーバイザー(SV)を抱え、8600の店舗で12万5000人のクルーが働き、800万人のカード会員が関わっている。また、物流部門としては53カ所のチルドディストリビューションセンター(CDC;主に弁当や総菜を担当)と27カ所のドライディストリビューションセンター(DDC;菓子や日用品など)、38カ所のフローズンディストリビューションセンター(FDC;アイスクリーム等)が稼働し、1200社の取引先から商品を調達するなど、非常に精緻な仕組みを構成している。

●生産者主導から消費者主導への新たなCRM

 従来は本部、支社、物流網までを主軸オペレーションとしていたが、今後はICCで顧客から取引先まで全てを対象に含めるため、次の2つの施策をとるという。1つはバリューチェーンマネジメント。顧客起点の品揃えや発注業務のために、売上計画の精度をSCMで向上させ、販促やプロモーション、値引き戦略などを企業全体として同期化させる。

 また、2つ目はリアルタイムマーケティング。顧客を巻き込んだ商品開発と、販売計画実現のための同期化したマーケティング施策を実施する。

 「過去の情報を基にした需要予測は古い時代のマーケティングであり、これからはデマンドシェーピング(新たな需要を形成すること)をしていく時代。ケータイやインターネットを活用し、生産者主導から消費者主導への新たなCRMを実現させる」(横溝氏)

 そのため、ローソン3.0では、店舗・SV・本部といった3層の情報構造による現場起点型に加えて、マルチベンダーで情報基盤を入れ替え、情報分析機能を本部に集約し、個別店舗の顧客対応能力を高めていく本部発信型のインテリジェンス機能を提供していくという。

●定性情報の見せ方と定量情報の共有の方法とは

 横溝氏は、「定量情報をどのように見せるか、あるいは定性情報をどのように共有するかが大切」だと強調する。ローソンでは機会ロスと廃棄ロスを削減するため定量情報をいかに見える化して次のアクションに結びつけるかが課題だったという。情報を集める方法はいくらでもある。しかし、集めた後にクレンジングして使えるデータとすることが難しいというわけだ。

 特にSCMではデータの精度が計画の成否を左右する。そのため、ICCにおいて情報を効率的に集め、使える形に加工する仕組みと、一元的に分かりやすく見せる工夫によって、情報に基づいた施策を実行する情報分析プラットフォームの構築を計画している。

 「しかし、データを自社の強みにするのは簡単ではない。世の中は急速に変化しており見方も非線形に変わる。この大不況においては、自社のセンシティビティを磨いてアクションを的確に実施できる企業が勝ち残る」

 また、定性情報の共有にはセールスフォース・ドットコムを活用。クラウドソリューションによって、本部方針の浸透からベンダーとの情報共有、有能なオーナー候補の発掘、顧客の苦情共有といった定性情報のリアルタイムな共有と分析を可能にすることで、将来的には1200社のベンダーや12万5000人のクルーともコミュニケーションを可能にしていくという。

●ローソンのICCを強化するDB・開発・分析能力

 さらに、ローソンのICCにはいくつか特長あるシステムが使われている。その1つの「FOCUS」は、ローソンのデータ基盤として現行の商品販売動向や店舗発注速報、商品客層分析などの情報系画面を網羅的に保有するシステムだ。店舗日単位で400日、店舗週単位で104週の50テラバイトのデータベースを抱え、仮説・検証、進捗確認を月次・週次・日次で行う。

 また、「SLiM」は基礎データをFOCUSから引き出し、LINUXのコマンド・シェルスクリプトを使って、業務改革に必要な社内アプリケーション開発や運用をアジャイルに実施するシステム。フラットファイルでのデータ管理、全店舗分のレシートデータを保持するデータベースとしての役割も持つ。

 加えて、アクセンチュアと組みBPO(アウトソーシング)によって、マーケティング施策のROIを実施している。ローソン会員800万人の購入実績データの一部(約1億レコード)を利用し、BIで分析した定量的評価結果を施策期間中の収益押し上げ効果として測定。特定セグメント顧客が購入しやすい商品をリストアップし、販促の対象商品選定の参考にしているという。

 CIOに着任した当時、横溝氏は経営と同期するIT部門を目指したが、現在は経営を変革するIT部門を目指しているという。

 「経営課題に片足を置き、もう片足をITに置き、経営課題を解決するIT施策を自らの頭で考えることが重要」と持論を語る同氏は、IT施策を経営戦略に仕立て上げ、それを実行し、経営改革の効果を継続的に創出することをビジョンに、選ばれるローソンを実現していくという。

2009年 5月17日
参照ITmediaエンタープライズ

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