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サービスプロバイダー業界潮流――激動のM&A時代をくぐり抜けて

今年4月、べリングポイントがPwCネットワークへの参加を発表し、「プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント」という社名が復活したのは記憶に新しいことでしょう。コンサルティング業界では統合や合併が頻繁に行われ、そのたびに社名が変わり、複雑な業界と感じている方も多いと思います。

 今回はコンサルティングをはじめとしたサービスプロバイダーのビジネスモデルの変遷、およびそれを促す最大の要因であるお客様企業の要求の変化について述べます。

●コンサルティングビジネスにおけるビジネスモデルの変遷

 激動の統合や合併の背景を理解するためには、まずビジネスモデルについて語る必要があります。そもそも会計事務所からコンサルティングサービスが派生したのは、公認会計士が監査業務の中で指摘したさまざまな経営課題や業務上の問題に対して、解決や指導を行うサービスが求められたのが始まりでした。故に、取り扱う内容は課題中心であり、経営課題を解決するためのビジネスモデルや業務プロセスなどの改革から、徐々にシステム導入を伴うテーマへと広がっていきました。個々のクライアント企業に対する深い理解と関与が必要だったため、人材は少数精鋭であり、大規模に発展できないという側面もありました。

 営業モデルとしては、コンサルティングファームの株主でもあり実行責任者でもある「パートナー」がクライアント企業への責任者として対峙し、監査業務によって提示される課題を基に経営コンサルティングや業務改革のプロジェクトを受託し、一線のコンサルタントとともにサービスを行うという形態をとっていました。

 このビジネスモデルに大きな潮目が訪れたのは、皆さんもよくご存じのエンロン事件が契機です。2001年にエンロンの巨額な不正経理・不正取引が発覚し、米証券取引委員会が監査法人とコンサルティング部門の分離を求める規則案を作り、米政府は2002年に会計不祥事やコンプライアンスの欠如を防止するためのSOX法を制定しました。

 結果として監査業務とのパイプが遮断されたことにより、各ファームには仕事を受託するための営業力が課題となり、それを補完強化するために数多くの統合や合併が行われることになります。前述のようにべリングポイントはPwC傘下に統合されることになったため、現時点までに大手で独立したまま事業を継続しているのはアクセンチュア1社です。

●ITベンダーのビジネスモデルの変遷

 かたやITベンダーについては、初期のビジネスモデルの中心は高利益率を上げるハードウェアであり、サービスは無償か非常に廉価なものでした。サービスの営業モデルは、営業専門職がユーザー企業を担当し、SEが工数やコスト、作業計画・外注計画を見積もり、プロジェクトを実行するという形態であり、営業とデリバリーとが機能分化されていました。このような営業とデリバリーが分化されているモデルが機能するのは、ユーザー企業側の要求が明確になっていることが前提条件となります。ユーザー企業から明確な要求がRFP(Request For Proposal)として提示され、その回答書として提案書が出され、競合他社との比較により受託企業が決められます。

 このビジネスモデルにおいては、システム開発の品質を担保することが最大の懸案事項です。品質確保のために、開発方法論に基づき、PM、ITアーキテクト、プログラマーなどの役割分担が行われ、定められた共通の成果物を繰り返し提供しました。要件が明確でない場合には、遅延やトラブルに発展しかねないという弱点がありますが、大量受注・生産には向いているビジネスモデルであると言えるでしょう。

 このモデルにおいて大きな潮目になったのは、2002年にIBMが当時のPwCCを買収したことです。IBMはシステム構築の上流と呼ばれるコンサルティング能力を保有することによって、上記のビジネスモデルを補強し、コンサルティングからシステム構築、運用保守、アウトソーシングまで一貫して提供できるサービス主体のビジネスモデルへと転換しました。その後、日本でも大手のITベンダーが次々とコンサルティングファームとの提携を行うことになりました。また、そのほかのコンサルティングファームにおいても、このエンドツーエンドのビジネスモデルへと追随していきました。

●エンドツーエンドのビジネスモデルが意味するものとは

 コンサルティングファームやITベンダーがエンドツーエンドのサービスを提供するようになったのは、クライアント企業やユーザー企業などお客様企業の要求の変化が根底にあります。従来は、お客様企業側に明確な要求やインテグレーション力があったために、ハードウェアやソフトウェアの選定が重要なテーマでした。

 現在では、例えば、24時間サービスを行う銀行システムや、グローバルでのサプライチェーン構築、時間やロケーションを超越したコールセンターなど、これまでに誰もやったことがないような新しいビジネスモデルの実現にITが深くかかわるケースが増えてきました。このようなケースでは、部分的に責任を持つプレーヤーではなく、すべての局面において責任を持てるビジネスパートナーという存在が求められます。同時にそれはサービスを受ける企業にとってのリスク回避の意味を持つことになります。

 構想策定、開発、運用、アウトソーシングなど上流から下流まで、特定の国だけではなくグローバルレベルで、CRM(顧客情報管理)、SCM(サプライチェーン管理)などプロセスを限定せず全領域――つまり(1)導入フェーズ、(2)地域性、(3)ビジネスプロセス、のすべてにおいてシームレスなエンドツーエンドのサービスが求められるようになってきたのです。エンドツーエンドのビジネスモデルの優劣は、サービスプロバイダーの今後10年間の競争を左右する要因となるでしょう。

 今回はお客様企業がシームレスなエンドツーエンドのサービスを提供するビジネスパートナーを求めるようになってきたこと、それによるサービスプロバイダーのビジネスモデルの変化について述べました。次回は真のビジネスパートナーになるための取り組みである成果共有モデルについて述べます。【椎木茂(IBCS)】

(ITmedia エグゼクティブ)

2009年 10月25日
参照ITmedia エンタープライズ

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