インタビュー:クラウド化は歴史の必然=日本IBM執行役員

 [東京 9日 ロイター] ネットワーク経由でソフトウェアや情報サービスを提供する「クラウド・コンピューティング」を強化している日本アイ・ビー・エムの吉崎敏文執行役員は、ロイターのインタビューで、日本法人内のクラウド担当者が300人を超えるチームに広がっていることを明らかにした。
 5年で100億円を投資してクラウドの人材を育成する方針だが、日本法人の従業員約1万5000人のうち、すでに2000人の教育を終えたという。日本市場では、グーグル<GOOG.O>やアマゾン<AMZN.O>などのクラウドサービスが注目されているが、IBMではクラウドにつながる技術を1970年代から展開していると指摘。「クラウド化は歴史の必然」として、企業のITコストの削減にとどまらず、事業強化につながるサービスを提供することで、過熱するクラウド市場で勝ち抜いていく意向を示した。
 インタビューの主なやり取りは以下の通り。
 ――日本法人で、クラウド事業を統括する組織を1月から立ち上げた。活動状況はどうか。
 「30人の社長直轄の統括組織は順調に滑り出した。クラウドとは、ハード、ソフト、サービスの多くの部門にまたがる領域だが、IBMとして統一的なメッセージを出すことができるようになった。日本法人では5年間に100億円を投資してクラウドの人材を育成する。3月までに延べ2000人の社員教育を終えた。もともと1000人と言っていたので倍以上の進ちょくだ。日本法人の各部署に配置されているクラウド担当者は、すでに300人以上のチームになっている。世界のIBMグループで初めてのチームだ」
 ――IBMが考えるクラウドサービスとは何か。
 「クラウド・コンピューティングの言葉は、グーグルのエリック・シュミットCEOが2006年に使ったのが最初だが、IBMとしては急に出てきたテクノロジーだとは考えていない。IT技術の進展は『集中』と『分散』の繰り返し。メーンフレーム(大型汎用機)とかスーパーコンピューターの時代は集中型で、パソコンの登場で分散型の時代に入ったが、今また集中型の時代になろうとしていることをクラウドと呼んでいる」
 「(1つのサーバーなどを仮想的に分割して使う)『仮想化』、(ソフト導入の基盤を共通化する)『標準化』、(メモリーやCPUをサービスに合わせて提供する)『自動化』がクラウドに必要な要素だが、IBMは、こうしたテクノロジーは1970年代のメーンフレームの時代からずっとやってきた。一般的には、グーグルや米アマゾンがコンシューマー向けから始めたサービスをクラウドと呼ぶイメージが強いが、IBMではこれを『パブリッククラウド』と位置づけている。これに加え、企業内のITシステムにもクラウドのニーズは強いので、IBMではこれを『プライベートクラウド』とする概念を打ち出して、昨年、日本で初めてサービスを始めた。パブリックでもプライベートでも、仮想化・標準化・自動化の延長としてクラウドを捉えている」
 「クラウド化が進めば、世界中のコンピュータが5台で済んでしまうとか、情報システムの人員が必要でなくなる、などと言われているが、まったくそんなことは思わない。データはきちんとした場所に置いておきたい(プライベートクラウドの)顧客はたくさんいる。そして、単純なバージョンアップの作業は企業側で必要でなくなるかもしれないが、企業側ではクラウドを利用・活用するスキルがますます重要になる。このスキルの差が競争力になっていくだろう」
 ――企業向けには、どんなクラウドサービスを提供するか。
 「既存のITサービスからクラウド化するものを切り出して提案する場合もあるし、まったく一からクラウドを構築する場合もある。いずれも、クラウドに必要なハード、ソフト、サービスを提供する。企業のITコスト削減も重要だがそれだけではない。企業のビジネスのスピードを上げたり、新しいビジネスを創出するための提案が必要だ。クラウドなら資金力のない中堅企業でも新しいビジネスを始めやすい。新規事業のIT投資は大きな負担だが、クラウドによって低価格で始められる。例えば、北米でWebコマースのビジネスをやりたい、半年間だけシステムを使ってみたい、だめならやめる、ということもできる」
 「具体的な事例としては、豊田通商<8015.T>の全額出資のベンチャー企業が、クラウドを使って新規事業を始めたのを手伝った。産業廃棄物の運送や処理の業者が共通に使っている伝票をシステム化し、これをクラウドにした。産廃関連の運送業者や処理業者は、わざわざサーバを導入する必要はなく、パソコンをさえあればこのシステムに参加できる。さらに、この会社は同じビジネスを海外でもやろうとしている。グローバルに出たときには共通化プロセスが必要になるが、ここにIBMの強さが発揮される」
 「日本のクラウドの話題は、ITインフラの月額料金などITコスト削減の話ばかり。CIOがクラウドに期待する1位はコスト削減だが、これは日本だけの傾向だ。他の国の企業がクラウドに期待しているのは、新規ビジネスやビジネスのスピード化などに結びつく新しい機能だ」
 ――日本のクラウド市場をどうみるか。
 「何をクラウドと呼ぶかによって変わってくるが、調査機関が公表しているレポートよりも数字は大きいとみている。月額500―1000円のメールサービスなど(パブリッククラウドの分野)だけをクラウド市場とみると小さな数字になる。ただ、それにしても、日本では、ここに多くのクラウド事業者が集中している。かつて、インターネットが始まったとき、サービスプロバイダーが乱立して淘汰されたのとよく似ている」
 ――クラウド事業に関する売り上げ目標を教えてほしい。IBM日本法人の売上高は約1兆円で、ITサービスの比率が7割くらいだが、今後、クラウドの比率は高まってくるか。
 「公表できないが、クラウドの売り上げ目標は社内的にきちんとある。ハード、ソフト、サービスで、仮想化、標準化、自動化したケースをクラウドの売り上げとしてみている。これはIBMとしてグローバル共通の定義だ。今後、クラウドの売り上げの比率は大きくなるが、既存のITサービスにプラスして増やさなければならない。日本法人の売り上げ1兆円のうちITサービスが7000億円だとすれば、これを減らすことなくクラウド事業で売り上げをプラスさせたい」
 ――クラウド化の進展によって、既存のITサービスの売り上げが落ち込むのでは。
 「単純にバージョンアップなどにかかるシステム運用コストの部分は減るが、新しい仕事は出てくる。パソコンが出たときに汎用機の売り上げが食われるとの懸念があったのと同じ。パソコンの登場では、実際にユーザーが広がって新しい市場が喚起した。クラウドの登場もテクノロジーの変遷にすぎない話で、新しい需要機会をみなければいけない」
 *このインタビューは8日に行いました。
 (インタビュアー:村井令二 浜田健太郎)
  (ロイター日本語ニュース 村井 令二)

2010年 3月29日
参照ロイター

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