「組織に風穴を開け、商社の潜在能力を引き出す存在に」−−シグマクシスの垣原COOが語る

2008 年5月に産声を上げたシグマクシス。総合商社である三菱商事が、投資ファンドであるRHJインターナショナルと組んで立ち上げたコンサルティング会社だ。なぜ三菱商事がシグマクシスのようなコンサルティング会社を立ち上げる必要があったのか。背景には、連結経営強化に向けた三菱商事グループ会社の経営・事業オペレーション能力の向上、そして従来型組織構造を越えた、新しい価値創造モデル実現への思いがあった。

 ビジネスプロセス革新協議会が2009 年5月15日に開催した第34回経営サロンで、同社代表取締役COO(最高執行責任者)の垣原 弘道氏が講演。三菱商事の従来の組織モデルに風穴を開け、その潜在能力を引き出したいという、シグマクシスに託した思いを明らかにした。以下、垣原氏の講演内容を示す。
コンサルとファンドのDNAを持つ
事業会社出身者も多数

 まず、三菱商事の国際戦略研究所が作成した、コンサル、ファンド、商社の違いを図式化したチャートを見ていただきたい。

 当社は、モノを扱う商社である三菱商事と、カネを扱う投資ファンドであるRHJインターナショナルがそれぞれ51%と49%出資して立ち上げた会社。商社とファンドのDNAを持ちつつ、コンサルティングの新しい形を作り上げようとしている。

 当社は、現在はほぼ全員が中途入社だ。外資系を含めたコンサルティング会社出身者が大半を占める。コンサルティング会社を経て、事業会社での業務を経験した者が多いのが特徴だ。「もう一度コンサルティング会社に戻るという選択肢はないが、コンサルティング会社と事業会社の中間に位置する企業があるなら、そこで新しい自分のキャリアを磨いてみたい」という思いを持った人が多く集まってきている。そういった意味で、当社は純粋なコンサルティング・サービスの会社というより、事業会社に近いコンサルティング会社と理解いただきたい。

 当社は、三菱商事の全体機能強化を推進する「全社開発部門」の管轄下にある。シグマクシス設立の理由を理解するためには三菱商事のビジネスの背景を理解することが近道になるはずだ。まず三菱商事の実態について簡単に説明しよう。
事業構造の変化により新しい課題に直面

 三菱商事は、エネルギーや金属、機械といった6つの営業部門を中心とした組織だ。

一般には「総合商社」と呼ばれ、各営業部門の総合力発揮を特長とする組織だと思われている。だが実態は逆。たとえば基本的な人事管理は、異動を含め各各営業部門の中で完結しており、むしろ「集合商社」となりかねない、あるいはそう呼んだ方が実態に合っているかもしれない危惧がある。

 三菱のビジネスの歴史を紐解くと、米などを産地から船で消費地に運ぶ中で、輸送中のリスクをとり、その対価として利益を得るモデルがあった。商社の事業構造は、時代によって大きく変わってきたものの、バリューチェーンのギャップに着目し、リスクをマネージし利益に変えるという、根本的な考え方は変わっていない。

 だがトレーディングからの利益が先細る中で、商社の目は「商権」の確保に向いた。具体的には、流通におけるモノの流れの途中に存在する事業会社の資本を15〜20%獲得し、直接的には事業経営に参画しない“安定株主”になることで、末永く取引していただく、という考え方だ。

 当初資本の獲得は、その企業の経営権確保のためではなく、商権確保のためだった。だが昨今では、連結業績に注目が集まるなど経営環境が変化。ときを同じくして、株を取得した企業のオーナー社長が、「経営から身を引くので、残りの株を取得してほしい」と言われるなど、気がつくと51%超の株を取得している、という状況も増えてきた。

 商社はトレーディングには慣れているし、商権確保のための株式投資を通じてインベストメントのテクニックも身に付けてきた。だが、ものづくりや事業会社のオペレーションには長けていない。元々は取引先との関係、バリューチェーンの確保を維持するために株を取得したつもりが、結果として、商社が本来得意でないはずの事業オペレーションの領域にも、足を踏み入れ、経営リスクを負わざるを得なくなってしまったのだ。

あわせて、商社の顧客も、商流の構築・運営への貢献だけではなく、自社のビジネス価値創造への貢献を求めるようになってきている。つまり、これまでの商社のスキルセットだけでは、グループ内運営も顧客へのサービスの向上も困難な局面にきているのだ。

 こうした環境に対する課題認識のもとに設立したのがシグマクシス。三菱商事グループ企業の、事業オペレーションの抜本的・継続的な改善、ビジネス価値の向上を実現する機能を担う。更に、事業会社経験者を含め、コンサルティング会社出身者を中心とした専門家チームの経験・ケーパビリティーに、テクノロジーや従来からの商社の機能を組み合わせて、顧客の課題解決にあたる。


 商社が今まで持っていたモノの取引や投資、業界の仲介者になるといった無形資産のビジネスコンポーネントをシグマクシスが束ね、三菱商事と一緒になって顧客に共同提案していく。場合によっては、投資した新事業に対するリターンの一部を、コンサルティングフィーではなく成功報酬として得る、というモデルも考えたい。

 商社の視点から見ると、商社機能の補強といった意味合いになる。商社が「顧客の中にもう少し入って手伝いをしたい」と思うと、シグマクシスのような存在が必要になってくる。
商社にとって“煙たい存在”だったコンサル

 商社の人間にとって、常に顧客のすぐそばにいて顧客の悩みを最初にそれを受けとめるというポジションは一番大切なもので、誇りでもあった。だがいつのころからか、顧客のところに行くと、そばにべったりとコンサルタントがいる状況を目にすることが多くなった。気付かないうちに、コンサルティング業界が勢力を広げていたのだ。

 非常に似通っているが、どこか違うスキル・アプローチで、顧客の中に深く入ろうとしている−。我々にとって、コンサルティング会社は非常に不気味な存在だった。コンサルタントと一緒に仕事をすることを嫌がる商社の人間も多く、三菱商事は90年代半ばまで、コンサルティング会社とは疎遠な状態が続いた。

 転機となったのは90年代半ば。当時の三菱商事社長の槙原 稔氏が、「コンサルティング会社もしっかり使ってみよう」と提案。三菱商事とコンサルティング会社の人材との接点が増えた。そこから10数年過ぎ、三菱商事はコンサルティング会社を起用する機会は多くなった。 もっとも、三菱商事がコンサルティング分野でビジネスを展開するかという点は、まったく違う次元で非常に慎重な議論が重ねられた。コンサルティング業界は成熟期だとか、既に曲がり角に突入しているのではないか、そんな分野に三菱商事が本当に踏み出すべきなのか、という議論は当然あった。だが1年間、倉重氏をはじめとするRHJインターナショナルのメンバーとも検討を重ねて、商社機能に加えることの意義とビジネスチャンスがあるのではないかという結論に達し、シグマクシスの設立に至った。
上流から一緒に取り組むパートナーに

 顧客の経営課題の認識は、「どうもここの事業部の調子が悪いようなのだが」「市場の反応が自分の事業予測と違っている気がする」といった漠としたもの。こうしたうっすらとした不安から顧客との関係をスタートさせるのが、商社の基本スタイルだ。

 当社も基本的には同じスタイルでいきたいと考えている。RFP(提案依頼書)をきちんと提出してもらえるなら、もちろんありがたい。だがもっと上流の部分で、「なんかこのあたりに気になるところがあるんだけど、どうしたらいいだろう」といったレベルの悩みを、最初に聞かせてもらえるパートナーになりたいし、そこに応えられることが大きな価値だと考えている。

 既存のコンサルティング会社には分野によって得意、不得意がある。ブティック型戦略系コンサルティング会社は、課題分析や戦略立案といった上流の課題に焦点をあて、実行はやらない。旧会計事務所系は業務プロセスが得意な半面、戦略領域は得意ではないだろう。いずれも良し悪しの問題ではなく、得意分野を絞っているのは、上流から下流まで一つの事業体の下での実行・連携が容易ではないからだ。

 シグマクシスは、戦略系やプロセス系、IT系のコンサルティングメンバーまでをそろえる体制と環境を作ることで、経営課題の発見から情報システムの構想・企画まで取り組める会社にしたいと考えている。

 シグマクシスでは、テクノロジーのコンポーネントは外部からの調達が主になる。 また、三菱商事が保有する業界知識をはじめとした無形資産のビジネスコンポーネントを積極的に利用したい。シグマクシスが、商社にある複数の機能を束ねる存在になれればよいと考えている。

2009年 7月15日
参照IT Leaders

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