マイケル・デル氏の軌跡?パソコン王がアップルをうらやむようになるまで

アップルがスマートフォン(多機能携帯電話)のiPhone(アイフォーン)やタブレット端末のiPad(アイパッド)で市場シェアを拡大する中で、デル氏はパソコン市場での自社のシェア低迷と売り上げの伸び悩みに直面している。デルは同氏自身が約30年前、テキサス大学の学生寮で設立した。

 デルの元幹部によると、会話がアップルに及ぶと、デル氏は体をこわばらせ、引っ込み思案の顔つきをしたものだ。別のときには、小さな勝利を喜んでいたこともあったという。例えば、ある学区がデルのコンピューターの購入を決めた場合などだ。

 ある元幹部によると、デルはこういった小さな戦いでいくつか勝利を収めていたが、デル氏は自分の会社が「戦いでたたきのめされつつある」ことを認めるのを拒んでいたという。

ここに来て、デル氏は思い切った措置を講じて、デル社とアップルとの比較を現実的な意味のないものにする可能性がある。それは230億ドル(約2兆1200億円)を超えるレバレッジド・バイアウト(LBO)でのデルの株式非公開化だ。

 関係者によると、デルは近くLBOの合意をとりまとめるとみられる。デル氏が同社の筆頭株主になるほか、投資家にはプライベート・エクイティのシルバー・レイク・パートナーズやソフトウエア大手のマイクロソフトが含まれる見通しだ。

 LBOは、一つの事実をデル氏が認めることを意味するだろう。それは、デルの売上高や利益の成長の回復に必要な変革が、ウォール街の監視の下では難しすぎて成し遂げられないという事実だ。それと同時に、LBOは47歳のデル氏があらゆる変革を監視する人間になることを可能にする。

 デルの現幹部と元幹部を10人以上、それにデル氏を知るその他の人物にインタビューしたが、そこからは、自らのレガシー(これまでの功績)にますます懸念を深め、取締役会が自分を脇に押しやろうとしているとの疑いを強めているように見えるというデル氏の人物像が見えてきた。これらの人々によると、デル氏は2007年に会長からCEOに復帰したときに見せていた熱意を、それ以降何年も見せていないという。

 デル株価がデル氏の復帰以降44%以上下落し、同社が危機に直面している現在、インタビューに応じたこれらの人々は、同社の株式非公開化が「会社としてのデル」を「デル氏そのもの」にする動きだと指摘する。ある元幹部は「ドアに彼(マイケル)の名前を貼る。ただそれだけのことさ」と話した。

 デル氏は昨夏、取締役会に接近し、デルを株式非公開にしようと積極的に動いていた。同氏にコメントを求めたが、回答はない。デル社の広報担当者もコメントを拒否した。

 デル氏は株式非公開後のデルの方向性を明らかにしていないが、同社はここ数年、数十億ドルを費やし、ストレージシステムやセキュリティーソフトといった一連のサービスや製品を買収している。それによって、同社をIBMを小さくしたような企業に生まれ変わらせることを狙っているのだ。デルは09年にITアウトソーシング企業のペロー・システムズを39億ドル、12年にはクエスト・ソフトウエアを24億ドルで買収し、そのほかにも多くの小型案件を成立させている。昨年には主に企業向けにソフトを販売する部門を設立した。

 アナリストによれば、デルには現在、ワンストップ(総合的)テクノロジー企業のために必要なピース(断片、部分)の大半がそろっているが、それらのピースを技術的そして組織的にうまく組み合わせる必要があるという。アナリストは、株式非公開になれば、同社がそれに集中できる可能性があるほか、パソコン事業の利益が低い部分、例えば消費者向けの小売り事業から撤退できるかもしれないと指摘する。

 一方、同社の売上高は08年の610億ドルからほぼ横ばいに推移しており、12年度(昨年2月終了)の売り上げは620億ドルだった。同年度の利益は35億ドルと過去最高水準だったものの、13年度の利益はかなり減少するとみられている。

 デル氏は長年、多くの成功を収めてきた人物だ。1984年にデルを設立し、2004年にCEOを退くまでに同社を世界最大のパソコン販売会社に成長させた。

 同氏の現在の純資産額は約140億ドルと推定されている。同氏は自らの資産を運用するため98年にMSDキャピタルを設立した。そしてCEOを退いていた04−07年の間に、MSDを使ってハワイに2つのリゾートを購入、その後3つ目のリゾートも購入した。

この間、デルは06年にパソコン市場の王座を奪われた。背景にはパソコン市場が小売店での消費者への販売から強く影響を受けるようになったことがあった。デルは直販を支持していたため、この分野では取り残されていた。デル氏は07年1月にCEOに復帰した際、同社を新時代に向けて復活させることを誓った。

 デル氏は業務、マーケティング、それに消費者向け事業の担当など、何人かの新しい幹部を採用した。同氏復帰後1年間は売り上げが伸びたものの、その勢いを持続できなかった。業務とマーケティングの責任者は2年もしないうちに同社を去った。また消費者向け事業の責任者も音楽プレーヤー、電話、それに高級ノートパソコンの取り組みが失敗に終わったことを受け、10年に同社を去った。

 デル氏とともに働いている人々によると、同氏は同社の会合でチアリーダーのように振る舞うのをやめたという。そして、同氏は公の場に出るのを控え始めた。11年には決算発表の電話会見のためにコメントを事前収録するのをやめ、財務担当責任者などに任せるようになった。

 同社の会合に参加した人々によると、デル氏は依然として会社運営上の点検は支配的に評価しており、大きな戦略的な判断よりも細部に集中しているように見えるという。同氏は数年前、高級ノートパソコンのXPS Oneを最初に使った後、4ページにわたるメモを書いた。同氏のメモは、同氏がパソコンを受け取ったその日の深夜に送信されたが、そこにはパソコンのパッケージに使われていた発泡スチロールに対する自身の考えも記されていた。

 10年の終盤までに、デル氏は消費者向けの製品を開発する取り組みをほぼやめ、企業向けのワンストップショップになるという新たな道を推奨するようになった。同氏は何十億ドルを費やしてセキュリティーソフトやストレージシステムなどのメーカーを買収し、製品を拡充した。

 企業向けの製品の利益率はパソコンより高いものの、今のところ、パソコン事業の落ち込みを相殺できていない。パソコン事業は同社の年間売上高620億ドルのうち、依然として半分を占めている。13年度の当初3四半期のパソコンの販売は前年同期から13%、総売上高は7%減少している。

2013年 2月5日
参照WSJ

デル(Dell)

テキサス大学の学生であったマイケル・デルが、1984年にパソコン保守を行う会社として創業した。IBM PC互換機は部品レベルで規格化され誰もがパソコンを製造できたことを利用し、パソコンの製造販売に乗り出す。ゲートウェイ2000(現ゲートウェイ)と並んで中間業者を排し、在庫を持たない注文生産(BTO)の直販スタイル(ダイレクト・モデル)が特徴。最新のスペックのパソコンをはじめ製品を安価に提供し、且つ希望通りのスペックのパソコンを購入できる(店頭では、その場で持ち帰ることのできるモデルも用意されている)。現在、世界でトップクラスの販売台数を誇る。

デル(Dell)について

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