今回は、就活において学歴(学校名?)や年齢に不安を持つ、コンサルティング会社志望の方からのご質問にお答えいたします。
こうした質問は非常によく受けるタイプのものですし、一度ここで整理したいと思います。よくあるケースは、親しい方の息子さんやご兄弟がちょっと悩んでいて、こうしたご相談を受けることです。質問者の方が大学生ということであえて厳しい話をしますが、おっさんの戯言として耳の穴をよく開いて聞いていただければ幸いです。
まずご質問者の方ですが、プロフェッショナルファームの人間として、私だったら落とします。
なぜでしょうか??そうです、「起業」と書くべきところを「企業」と書いていますね。ほかにも「てにをは」が間違っています。こういう誤字脱字のようなケアレスミスをする人は、プロフェッショナルとしてコンサルティングファームには向いていません。
たとえばこんな誤字のあるレポートや契約書をクライアントの経営者が見た際に、コンサルタントを信用できるでしょうか??または、こうしたミスをするアソシエイト(プロ・ファームの新人)をお客さんの前に会社は出せるでしょうか??普通のプロ・ファームであれば、「数字を間違えたら死ぬと思え」とアソシエイトを教育します。
知恵やアドバイスを売って歩くコンサルティングやアドバイザリーのビジネスは信頼がすべてです。これはもちろんほかの商売にも言えますが、ほかの商売は営業マンがダメダメでも商品が世界最高品質&唯一無二かもしれません。プロ・ファームは人しかいないので、人がダメなら終了です。
もしかしたら質問者の方は、誤字脱字はあるけれども、天才的なアイデアの持ち主であり、将来のスーパーコンサルタントかもしれません。しかしながら、誤字脱字で信用をなくし、クライアントに天才的なアイデアをプレゼンする前に門前払いされてしまうかもしれません。くだらないと思うかもしれませんが、これが「シグナリング」というものです。
学歴の話をしますと、東大理系なら数字の勘はあるだろう、とか、米国アイビーリーグに留学していたなら、英語はネイティブレベルでそこそこの文章力やプレゼン力はあるだろう、と採用側企業はその学生の「シグナリング」を受けて推測します。学歴(学校名)と能力の相関性が高いと考えているため、学歴によるシグナリングを検討要素のひとつとしているのです。
質問者の方もご存じのように、企業側は当然のように学校名でフィルタリングをかけています。就活サイトによっては学生が入力した学校名によって、システム上で見ることのできる画面さえ違うことが普通です。学生の方はビジネスでのトラックレコード(成功した事業等)がないために、可視化されている学校名くらいしか見るものがないのです。そのため、たくさんの学生から応募がある人気企業では、初期的な採用候補の振り分けを学校名に依拠します。
ちなみに筆者があえて「学校名」と記載しているのは、そもそも学部レベルで「学歴」というのがおかしいと考えているからです。筆者はアカデミアに興味も関係もない商売の人間なのでいいのですが、博士号を持っていなくても中央銀行総裁になれたり、経済学修士号さえ持たず、学術論文も書いたことのない人間が「エコノミスト」を名乗ってテレビに出演できる日本は、学歴の関係ないすばらしいところだと思います。海外の大学院でストイックに論文を書いて博士を目指している学生たちのことを思い出すと、ちょっと悪い気がします。
ご質問者の方は外資系コンサルから学歴で落とされてしまうと不安に思っているそうですが、事実としてトップレベルのグローバルファームには、筆者のような日本の私大文系がそもそもいません。トップレベルというのは、たとえば、就活サイトVault.comのVault Consulting 50の上位にあるファームのことです。東京オフィスでは日本の大学であれば東大、そして理系修士以上がマジョリティなのが普通です。そういう意味では不安になるのは間違っていないと思います。
国立トップの東大や理系がマジョリティなのには、理由があります。新卒でコンサルは「算数」ができて数字の勘があることが極めて重要です。論理的思考は、突き詰めて単純化していくと数式に近づくので、そうした思考プロセスに慣れていることも有利なのです。一方で筆者のように算数が苦手だったり、そもそも数学をちゃんとやっていなかったりする私大文系は不利なのです。
実務においては高等数学が理解できるというより、細かい数字が並ぶ表の縦の合計、横の合計にミスがあるのを感覚的に発見できたり、巨大な財務モデルでどこかに出てきた数字を覚えていて、数式のエラーを修正できたりするセンスがアソシエイトには重要です。
そしてダブルチェックを怠らずミスをしない姿勢が鬼のように重要です。筆者も本当に苦労しました。それなりのコンサルティングファームに入れば、最初の数年間に見る夢はエクセルの広い海を縦横無尽に泳ぐ夢がほとんどです。たいていのアソシエイトが「エクセルの海は広大だわ」と口に出したことがあるはずです。
ところで質問者の方は、なぜコンサルティング会社に入りたいのでしょうか??おっしゃるような社会人マナーであれば日系の銀行や商社のほうがしっかりしていますし、外資系コンサルや投資銀行には脳味噌のCPUは高速でも、人としては7歳くらいの人間が結構います。また、論理的思考力の強化であれば、今では関連書籍がアプリでも購入でき、この瞬間から論理的になることができます。
学生の方であれば、あらゆる職種のバイトだってできます。筆者は学生時代にコンビニバイトをチェーンを変えて3店ほどやりましたが、非常に勉強になりました。今でもそう思いますが、ビジネスの世界において無駄な経験というものはほとんどありません。特に誰かが困っていることや、解決できていない問題はまさに商売の母です。もしも起業されたいのであれば、1日10個ずつ、世の中の困ったことを探すだけでも意味があります。
質問者の方は「コンサルにも○○系・○○系と多数存在しているのは把握済みであり」とおっしゃっていますが、起業するにあたってシステム系でも飲食業界専門コンサルでもよいのでしょうか??コンサルティングビジネスとビジネスは異なるため、コンサルティングに従事すれば起業に役立つかといえば、少しは役に立つ程度だと思います。コンサルティングビジネスの多くはクライアントの期待値をコントロールすることにフォーカスがあるためです。
また、「大手」ファームを志望されているそうですが、「大手」の定義は何でしょうか??私は大手コンサルティング会社に行きたいと言う学生と話をしたことがありますが、それは社員数の多さだったことがあります。社員数が多ければそれだけサービスは細分化され、ずっと製薬業界だけ、ずっとサプライチェーンマネジメントだけというコンサルタントになる可能性もあります。
コンサルタントが出しやすい付加価値というのは、産業間の知見の移動か、地域間の知見の移動によるものです。たとえば前者は自動車業界で当たり前の手法をアパレル業界に持ち込むことであり、後者はノルウェーで当たり前のことを日本に持ち込むことによって付加価値を創出することです。そのため、コンサルタントは若いうちほどさまざまな業界とテーマに触れたほうが成長します。
質問者の方にちゃんと質問に答えていないと怒られてしまうかもしれないのでお答えしますと、トップクラスのグローバルファームに私大文系や普通の大学出身者が入るのは困難です。どうしても入りたい場合は、ハーバードやスタンフォードなどの海外トップMBAに行ってから入りましょう。おカネがないなら奨学金を取りましょう。筆者は学歴ロンダリングに賛成です。なぜなら70%くらいの人間の能力に大した差はないのに、自分に張られたレッテル(学校名)でコンプレックスを持つのは時間の無駄だからです。
「そんなの無理」と思った場合、「トップ・コンサルに入りたい」という意思はその程度なのだと推察します。でもよいと思います。たかがビジネスの話です。”Street Smart”を標榜して、今すぐ起業してもよいでしょう。
エスタブリッシュメントになった場所に、アービトラージはありません。1980年代のジャパンマネー最強時代に外資系コンサルや投資銀行に行った人だけが、その後の利益を享受できたのです。その頃に入社した人の中には、学歴がなく日本の銀行に入れなかった人もいました。
出来上がった場所ではなくカオスを選びましょう、ロールモデルなんてクソ食らえです。筆者も「温室育ちの学歴エリートには負けないぞ」と思って頑張っています。おっさんになって思うことですが、いちばん難しいのは張られたレッテルや組織からも自由に生きて、「このフィールドならオレが一流」と心から自分に言えることです。まだ学生です、何でもできます。どうぞ楽しいビジネス人生を生きてください。
2013年 6月21日
参照東洋経済online
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