■規制改革や法人税引き下げを 政策研究大学院大学副学長・大田弘子氏
■少子高齢化に向けた社会整備 日本総合研究所理事・翁百合氏
■クリアな金融政策を打ち出せ マネックスグループ社長・松本大氏
大不況を乗り越え、日本経済が上昇気流に乗るには何が必要か。元経済財政担当相で経済行政に明るい大田弘子政策研究大学院大学副学長、的確な経済分析で定評のある翁百合日本総合研究所理事、投資家心理も熟知する金融界の論客の松本大(おおき)マネックスグループ社長の3人に処方箋(せん)を聞いた。学識者、エコノミスト、企業経営者と立場は違うものの、3人とも「成長戦略の重要性」を指摘するなど、鳩山政権への注文が相次いだ。
主な一問一答は次の通り(敬称略)。
−−世界景気の現状認識は
翁「財政支出や金融緩和などの政策が相次いでとられ、景気を下支えした。ただ東欧では不況が深刻で、米国も不良債権を抱えた地銀の破綻(はたん)が増えるなど、回復には時間がかかる」
松本「世界景気をリードする米国と中国が、おおむね妥当な景気対策を打っている。政策も迷走していないし、全体的に回復に向かうだろう」
−−日本経済については
大田「輸出や生産は持ち直し、最悪期を脱したが、内需は依然弱い。前政権の景気対策の効果が剥落(はくらく)するとみられる年末に『二番底』をつける懸念は払拭(ふっしょく)されていない」
翁「在庫調整の一巡や政策で押し上げられた部分が多く、最終需要は弱いままだ。牽引(けんいん)役の設備投資も個人消費も弱いため、来年度にかけて低迷が続くだろう。円高の影響で輸出も落ち込みが懸念される」
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−−景気回復へ企業向けの政策で必要なことは
大田「補助金などではなく、企業の改革を促す規制改革や税制改正が重要で、新政権にはこの視点が欠落している。具体的には、転廃業支援や育児などの規制緩和による潜在需要の掘り起こし、法人税の実効税率の引き下げも考えたい」
松本「欧米の金融機関は海外にコールセンターがあるが、日本は資格などの問題で事実上国内のみ。国際会計基準が適用されるまでは、M&A(企業の合併・買収)でのれん代を償却しないといけない。日本は企業活動を制約する規制が多すぎ、緩和することが大事だ」
−−家計向けの政策では
翁「これから雇用まわりが一段と厳しくなる。失業者に対しては一時的な支援に限らず、職業訓練を行って次の職に就けるようなセーフティーネットを提供する必要がある。それも地域の実情に合わせ、介護のような人材が必要とされる分野に就職できるようにするといい」
松本「1500兆円ともいわれる個人貯蓄を、1%消費や投資に回すだけでも大きな効果がある。相続税を大幅に上げ、生前贈与税を下げるなどして、消費する世代にお金が回るような仕組み作りを急ぐべきだ」
−−行財政、公共投資、税制面からできる景気対策は
大田「財政健全化の目標は必要だが、消費税増税などの税制改革だけで行うのではなく、小泉政権の『骨太の方針』のように、歳出削減と一体的な目標にすることが重要だ。『歳出改革ができなければ増税幅が増える』と動機付けできる」
翁「行財政改革では不要不急の事業を精査し、雇用支援や将来必要な社会インフラに振り向ける。長期的には長期金利は上昇しないことが望ましく、財政規律を常に意識することが大切。公共投資も保育園の施設整備や学校の耐震化など国民生活に密着したものにあてたい」
−−政権交代の意義と鳩山政権の印象は
大田「たとえば、かつて経済財政諮問会議で議論し、私も実行したかった国の地方出先機関の原則廃止を実現できれば、それだけでも政権交代の意義がある。ただ、政策が分配と行革だけで成長の視点がない」
松本「今まで解決されなかった社会問題の背景が明らかになれば、政権交代の意義は大きい。副大臣や政務官クラスに若く有能な人が多く、印象は悪くない。今後、実際に役所を動かせるかどうかがポイントだ」
−−新政権の課題は
翁「国家戦略局を早く立ち上げ、政策を分かりやすい形で実行に移すこと。目玉の子ども手当は子育て支援に目を向けた点で評価できるが、消費刺激策だけでなく、企業を強くする成長戦略も打ち出してほしい」
松本「鳩山首相が表明した温室効果ガスの25%削減目標などは分かりやすいし、議論も可能だ。しかし、金融・資本市場政策に関しては政府の方針が不透明。議論をもつためにもクリアな金融政策を打ち出すべきだ」
−−もし自分が首相なら景気回復のために何を優先するか
大田「新政権の課題は成長戦略がないことで、誰が付加価値を生み出すのか分からない。非製造業の生産性向上やグローバル化を進め、EPA(経済連携協定)の加速や羽田・成田両空港の再整備などが重要だ」
翁「本格化する少子高齢化時代に向けた社会資本整備が重要だ。保育・介護施設の充実や、医師を結ぶITネットワーク、失業者支援が急務だ」
松本「長期的には少子化対策として『出生率を2にする』など具体的な数値目標を掲げ、議論を喚起する。人口構成を変えない限り税収は減り、どんな経済対策も些末な話に終わる」
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【プロフィル】大田弘子
おおた・ひろこ 1976年一橋大社会学部卒。97年政策研究大学院大助教授、2001年同教授。内閣府参事官などを経て、06年経済財政担当相。08年8月から政策研究大学院大学教授、09年4月から副学長。55歳。鹿児島県出身。
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【プロフィル】翁百合
おきな・ゆり 1984年慶応大大学院経営管理研究科修士課程修了。同年に日本銀行入行。2000年日本総合研究所調査部主席研究員などを経て、06年から理事。49歳。東京都出身。
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【プロフィル】松本大
まつもと・おおき 1987年東大法学部卒。99年ソニーと共同でマネックス証券を設立。2004年マネックス・ビーンズ・ホールディングス(現マネックスグループ)を設立、代表取締役社長CEOに就任。45歳。埼玉県出身。
2009年 10月12日
参照フジサンケイ ビジネスアイ
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