仮想化より緊急かも?――今こそ取り組むPC管理の改革

日本のオフィスワークで利用が始まっておよそ15年を経過したPCは、ワークスタイルや業務効率を大きく向上させてきた一方で、導入黎明期から各企業が独自の運用方法を模索し、管理手法も統一されないままになっていることはあまり注目されていない。情報システム部門の関心は、サーバやネットワーク環境の運用・管理に向けられ、仮想化や統合などで大幅な見直しが進んでいるものの、PCの運用管理はなぜかおざなりにされてきた。

 その理由は幾つかあるが、PCは社内の隅々にまで物理的に散在し、正確な実態を把握しづらいということや、設定や保守のバリエーションが著しく多様であることからサーバやネットワークと異なる管理手法が必要とされること、また効率的な管理を推し進めようとしても、従来のやり方を変えたがらないユーザーの強い反発もあり、結果的に放置されてしまったというのが実態だ。

 「実はそこに大きな無駄が隠れており、経営者も情シス部門も気づいていないことが多い」と指摘するのは、野村総合研究所(NRI)の基盤ソリューション事業本部で基盤ソリューション事業3部長の主席コンサルタントを務める岡崎誠氏だ。PCの運用管理が手間・コストとともに肥大化傾向にあり、それが企業の ITコストを圧迫し始めているという同氏は、

 「これまで改革や改善がされてこなかったということは、反対に効率化の余地が大きいと見ることができる。今こそPC管理に改革というメスを入れるタイミング」と語る。

●管理業務が複雑化・肥大化するPC運用の現状

 ひとくちにPC管理といってもその内容はさまざまで、とにかく人手が掛かる。大量にPCを保有する大企業の場合、維持管理業務の一部を外部の委託業者のアウトソーシングしているケースも少なくない。

 自主管理にしても外部委託にしても、PCに関しては導入時の管理手法が引き継がれる傾向があり、手続き申請や承認行為の多重化などで複雑化し、トラブルがあるたびに業務プロセスが追加され、むしろ管理業務が肥大化しているのが現状だという。

 では、企業はPC管理を放置しているのかといえば、そうばかりとは限らないらしい。岡崎氏はさまざまな企業事例からPC管理の現状を示す。PC管理を見直した企業の1つ、製造業A社では、情報子会社をベンダーに売却した際に交換条件としてフルアウトソースしたことの反省により、PC管理の個々の要素に最も適したアウトソーシング先を分散するなどセレクティブソーシングを実施した。

 運輸業B社では、反対に人手が掛かるPCの現地作業コストの削減を目指し、自動化による付加価値のある運用サービスを求めて最適な運用委託先を選定。

 製造業C社も、1万台以上PCを抱え自前で運用を行っていたため、ユーザーへのサービスレベルの低さが課題だった。経営サイドからはユーザーがPCにかかわっている時間の増大が問題と見て、アウトソーシングを推進した。

 一方、PC管理の必要性は認めながら改革を進められなかった企業もある。金融機関D社では、経営層は改革推進派だったが、管理職は現場の抵抗を懸念して改革に二の足を踏んでいた。結局は表面的で中途半端な改革にとどまった。

 運輸業のE社も経営層は改革推進で、トップダウンによる改革の計画を策定したものの、現場は現状を変えたがらない。改革担当が移動したことを契機に計画が頓挫。

 公共のF社は経営側からコスト削減の圧力が強かったのだが、現状の情報子会社が関係会社のため切り捨てが決断できずプロジェクトが停滞してしまったという。

●PC管理改革を阻む3つの要因

 これらから、PC管理改革を阻む3つの要因が見えてくると岡崎氏はいう。1つは、そもそもPC管理の改革のやり方が分からないこと。ベンダーに改革を求めても、メリットがなければベンダーも自主的には動かない。2つ目は改革によるリスクやトランジション(移行)コストへの懸念。体制を替えることによってトラブルが増加したりリードタイムが長期化したりすることの心配や、移行コストを改革後にペイできるかどうかの不安もある。そして3つ目は、改革によるユーザー影響の懸念。情報システム部門は伝統的に現場ユーザーに弱い立場にあり、ネガティブなユーザー影響を回避したがる傾向があるという。

 では、具体的な改革の方法だが、岡崎氏はユーザーに影響が出ない範囲で行う内部改革と、積極的にユーザーに影響を受け容れてもらう外部改革とに分けて整理してみるとよいという。

 内部改革とは、まず自分たちがどの状況にあるのかを把握すること。例えば、図にあるようなCOBIT成熟度モデルなどの指標を利用するのも1つの方法。

 「問題をかかえる企業はレベル2前後が多い」という岡崎氏は、ドキュメントは離散的で書式・記述深度もまちまち、属人的かつスキルに依存した業務形態が多いと分析する。そこで業務フローを記述してみることで、どこに無駄があるのかを把握し、その上でPC管理体制を統廃合してコスト削減を実行すべきとアドバイスする。

 また、自社のコストの現状を知ることも重要だ。NRIが2007年に実施PC運用に関するアンケート調査によると、年間におけるPC1台あたりの管理コストの平均額は、およそ2.3万〜2.4万円程度となり、月に2000円あたりが平均相場となっているようだ。サービスレベルによって変動するが、自社の現状の管理コストを把握することも指針になる。

●事実のデータを公表し実態のないクレームに対応

 次に外部改革の進め方。岡崎氏は、エンドユーザーからのクレームは、本当のエンドユーザーではなく、実態をよく知らない代表者(役員や上級管理職など)がユーザーの意見を大げさに誇張する傾向があるとし、また職場のとりまとめ役となる人は職場での摩擦を恐れ、情報システム部門からの依頼をエンドユーザーに伝えたがらない傾向にあるという。これでは、双方とも実態が分からないまま改革を進めせざるを得ない。

 どこで、情報システム部門はインシデントの記録や利用状況が把握できる仕組みを使い、事実(PCを使っていないなど)のデータを収集するとともに、エンドユーザーと直接話すルートを確立して短周期かつ継続的にユーザー満足度調査を実施することで、それらを公開し説得材料にするのが重要だという。

 それにより、誇張され、あるいは間違ったクレームに対して、正しいデータ(サポートに時間がかかりすぎるのではなく、承認行為に時間がかかっているなど)を証明し納得してもらう。

 しかし、外部改革は少なからずユーザーには影響を与える形となる。そこで、改革後のメリットと引き替えにユーザーを説得するのも効果的という。例えば、「設置後の設定を自動化するので」→「PCを自分で設置してください」とか、「対応を早くするので」→「PCを取りに来てください」といったテクニックだ。

 また、トランジションコストはどうしても避けられない。しかし、現状の厳しい経済状況でまとまった予算を捻出することも難しい。そのため、現状の運用費用とコスト削減額の差異を利用し、トランジションコストをサービス開始から一定期間をかけて平準化するプランで進めるケースも増えているという。

●ミドル層に本気で改革する覚悟はあるか

 具体的な改革の進め方は大きく3つあるという。1つ目は、小規模の改革・改善での推進を前提とする現状体制維持型改革。既存のコントローラーと既存のベンダーの体制のまま改革を行うため、リスクは低いが効果もイマイチ。2つ目は、大幅な改革やコスト削減を志向するゼロベース型改革。コントローラーやベンダーをすべて替えるため、リスクは大きいが効果も短期に大きく出る。そして3つ目は、大きな改革を目指すがユーザーインパクトを最小限にしながらソフトランディングを目指すチェンジマネジメント型改革。コントローラーを替えるが、必要に応じてコスト競争力のあるベンダーに替える。リスクは抑えながら効果を最大にできる。NRIではこのチェンジマネジメント型改革をベースにしたサービスを開発し、情報システム部門の視点でPC管理の改革を進めているという。

 どれを選択するかは、各社のお家事情で判断するしかないが、トップダウンだけでは改革は進まず、ミドルクラスの役割が大きいと指摘する岡崎氏は、「ミドル層が本気で改革する覚悟を決めて実施している企業はほぼ成功している」と語る。

PC運用の改革は、多くの場合2年ほどの時間をかけて最適化していくもので、重要なのはマネジメントの意志がぶれないことだという。とたえユーザーの反発にあってぶれたとしても、調整しながら理解を得ていくマネジメント力が成功のカギとなりそうだ。【富永康信(ロビンソン)】

2009年 11月21日
参照ITmedia エンタープライズ

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