「クラウドの価値がデバイスの価値を上回った」 DellのWyse買収

Dellが相次いで3件の買収を発表した。いずれもソフトウェア分野で、コアのPC事業からエンタープライズへの拡大を図るものだ。とりわけ注目を集めたのが、シンクライアントの老舗Wyse Technologyの買収。PC事業を活用しながらサービスを拡大できることから、理にかなった戦略と評価されている。

■シンクライアントからクラウド管理までをカバーするWyse

Dellは4月2日、シンクライアント/仮想デスクトップ技術のWyseと買収で合意したと発表。これに続いて、アプリケーションモダン化などのITサービス企業のClerity SolutionsとMake Technologiesを買収することも明らかにした。Dellは現在、ソフトウェア/サービス事業を強化しており、これらの企業買収は、Dellの戦略に沿ったものだ。

特に注目を集めたWyseは、もともとシンクライアントやデスクトップターミナルを開発するソフトウェア・ハードウェアベンダーだ。創業は1981年とDellよりも古い。近年は遠隔からアプリやドキュメントにアクセスするデスクトップ仮想化、管理、クラウドなどにも事業を拡大しており、クラウドの視点からも最注目企業の一つとなっていた。

Wyseは、2000万台以上のシンクライアント出荷実績を持ち、2011年第4四半期は、この分野でシェア1位。2011年は前年度45%増の売り上げを記録している。両社は買収金額を公表していないが、4億ドルから6億ドルと見られている。

Dellは、Wyse買収によって、デスクトップ仮想化機能の拡大、Dellのエンタープライズソリューション・サービスに新しい市場を提供すると説明している。DellとWyseの技術を組み合わせ、「代替となるコンピューティングモデルを提供する」という。また、ユーザーには、セキュリティ強化、デスクトップ管理の合理化、生産性改善などのメリットがあるとしている。

■VDI、クラウドに拡大ーーアナリストは好評価

この買収を、アナリストたちはおおむね好意的に評価している。

ISI GroupのBrian Marshall氏は「PCインストールベースを活用し、デスクトップ仮想化のような成長トレンドと交差する方法として戦略的に理にかなっている」とWall Street Journalにコメントしている。クラウドと仮想化ベースの環境への移行が進む中で、Wyse製品はこれらの架け橋になるというのだ。

Technology Business Research(TBR)は「WyseによってDellは仮想デスクトップインフラ(VDI)ポートフォリオを拡大し、「PowerEdge」サーバーや「EqualLogic」ストレージなどのハードウェアポートフォリオで、包括的なソリューションを提供できる」とFinancial Timesに述べている。

Computerworldは、複数のアナリストの意見を集約。Wyseのデスクトップ仮想化は低価格だが、企業はスピードなど高機能のインフラツールに投資することになり、Dellは今後、PCよりも収益性の高い事業に展開できるとの見方を示した。

また、Jefferies&Coは、クラウド管理ソフトにも注目する。eWeekが引用した同社のリサーチノートでは「包括的なクラウドコンピューティングスタックを集めるにあたって、論理的なステップと言える」と記し、例として、MacやWindowsデスクトップとスマートフォンをリモートで接続する「PocketCloud Remote Desktop」などを挙げている。

一方、やや懐疑的な見方もある。Stern AgreeのShaw Wu氏は、Business Insiderに、この買収での疑問点を挙げている。(1)CitrixやVMwareと提携することもできた、(2)Wyseはサービスも持つがLinuxマシンも製造しており、大量の安価なハードウェアを背負い込むことになる――といったことだ。

■PC事業からの転換

DellのWyse買収には、PC市場がかつてのような成長を見込めなくなってきたという背景がある。Gartnerがまとめた2011年のPC出荷台数はわずか0.5%増と成長鈍化が著しく、タブレットなどのモバイル端末とクラウド化により、今後も流れは変わりそうにない。DellのライバルであるHewlett-Packard(HP)は、昨年、いったんはPC事業の切り離しに踏み切ろうとした。

こうした環境の中、Dellは2月、CAでCEOを務めたJohn Swanson氏を迎え入れ、ソフトウェア事業強化を図っている。GigaOmは、Wyse買収を「クラウド、サービス、ソフトウェアポートフォリオの構築に向け、Swanson氏が本腰を入れ始めた」と見ている。

Dellは以前にも、39億ドルを投じたPerot Systemsや、SecureWorksなどのソフトウェアとサービス関連のベンダーを次々に買収しており、この2年間で15もの企業を手に入れている。それでも、エンタープライズ分野では、EMC、IBM、HPなどの後を追う位置にあり、クラウドではAmazonなどの新しい競合にリードを許している。

ITコンサルタントInterabor SolutionsのDana Gardner氏は、Wyse買収について、「PCベンダーがデスクトップ仮想化ベンダーを買収するなどということは考えられなかった。クラウドの価値が、デバイスの価値よりも重要になったことを示す例だ」とGigaOmに述べている。PCで頂点に立った企業が、ポストPC時代にどう対処すべきかが問われているのだ。

2012年 4月9日
参照クラウド Watch

デル(Dell)

テキサス大学の学生であったマイケル・デルが、1984年にパソコン保守を行う会社として創業した。IBM PC互換機は部品レベルで規格化され誰もがパソコンを製造できたことを利用し、パソコンの製造販売に乗り出す。ゲートウェイ2000(現ゲートウェイ)と並んで中間業者を排し、在庫を持たない注文生産(BTO)の直販スタイル(ダイレクト・モデル)が特徴。最新のスペックのパソコンをはじめ製品を安価に提供し、且つ希望通りのスペックのパソコンを購入できる(店頭では、その場で持ち帰ることのできるモデルも用意されている)。現在、世界でトップクラスの販売台数を誇る。

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