元ソニーのCIO(最高情報責任者)で、現在ガートナー ジャパンのエグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏は、システム部門の役割を拡大していく時期は、そこで働く人たちのスキルの幅を広げる絶好の機会だと説く。「変化に慣れる」ためにもジョブローテーションは欠かせないという。
システム部門の役割を広げていく「拡大期」は、担当者やマネジャーが自分自身の仕事やスキルの幅を広げていく、またとないチャンスである。役割が広がれば、当然多様なスキルが求められるようになるし、マネジャーは担うべき仕事に対して部内の人材がそれを満たせる多様な状態になっているかを考えるようになるからだ。 場合によっては担当者のスキルシフトも必要になるわけだが、いずれにしろ、新たなスキルを身に付けるためにこれまでの枠組みを越えていく、いい機会になる。
私は人材育成の課題は、着手するべきタイミングが非常に大事だと考えている。現場が火の車のなかで人材の問題に手を付けようとしても、「だったら一番詳しい人をその現場に張り付かせよう」となるだけだ。これまで繰り返し述べてきた「マイナスをゼロに戻す」時がまさにそれで、この時期は人材の問題にまで手が回らないのが実情である。その状態を脱し、システム部門の役割が拡大期に入った時こそ、人材の問題に踏み込む好機である。
人事異動に数値目標を設定
システム部門の仕事は放っておくと、どんどん固定化していく。個々の担当者は「私はインフラ」「彼はアプリケーション」といった具合に役割を決め付け、そこに“安住”しようとする。
すると仕事がどんどん属人化して、継承されなくなる。暗黙知が形式知になっていかない。さらに人が動かないから組織が硬直化し、現場に閉塞感が漂い始める。これではまずい。
そこでCIO(最高情報責任者)だった私はシステム部門の役割が拡大期に入ったと見るや、「ここで思い切って組織に揺さぶりをかける」と決めた。人を動かし、あえて“不安定”な状態を作り出すことで人材を育てようと考えた。
具体的にはそれぞれの組織に対し、人材の何%をジョブローテーションで異動させる数値目標を設け、人材の流動化を図った。
新入社員については最初の2年間を研修期間と位置付け、例えばインフラとアプリを1年ずつ経験させる。どちらにしても、担当者には新しい経験を積むチャンスを提供した。そのうえで会社としては各自の適性を見た。
ジョブローテーションには組織間の相互理解を深める意味合いもある。よくある話だが、インフラとアプリの担当者は総じて仲が悪い。それはお互いの仕事を知らないからだ。だったら知る機会を作ればいい。そこに手を付けた。
まず変化に慣れる
もっと大きな視点で言うと、ジョブローテーションには「変化に慣れる」という狙いがある。私は事あるごとに「変わる勇気」「チャレンジ」といった言葉を使ってきたが、要は「自分が変わらないと(誰かに)取って代わられる」という危機意識を全員に持ってもらいたかった。
人材の流動化は、もはや止められない世の流れだ。現場のマネジャーが「エース級の部下を外に出したくない」と考えたところで、その人がいつ辞めていなくならないとも限らない。それを考えれば、社内での異動など大きな問題ではない。これからの時代、現場は人材の流動化に慣れておく必要がある。これは一過性の問題ではない。
なかでも現場のマネジャーは、このことをよく認識しておくべきだ。なぜなら、ジョブローテーションで人事異動が決まった時、その部下に彼ら彼女らへの期待や会社の狙いを説明するのはマネジャーだからだ。
もちろん、優秀な部下が異動した後でも、現場を滞りなく回していくのはマネジャーの役目。そのためには、例えば日頃から、現場のナレッジを文書化しておくなど、後任に伝えられるように準備しておかなければならない。
こうした積み重ねの結果、「変化に躊躇しない組織」が生まれ、自然に変化を受け入れられるようになる。変化に慣れるとはそういうことだ。するといつしか変化するのが当たり前と思えるようになり、人材の流動化にも積極的になって、プッシュ型で人を出せるようになる。
なぜ私がジョブローテーションにこだわるかといえば、「マネジメントとはこういうものだ」というフレームワークを各自が見つけていくうえで、複数の仕事を経験した方が、フレームワークの完成精度は高まるからだ。社長が経験したことのない部門までマネジメントできるのは、自分の複数の経験を抽象化し、自分なりの普遍的なフレームワークを確立できているからである。それを未経験の部門にも当てはめて考えられる。こうした人材を1人でも多く育てることが、真の人材育成である。
IS、be ambitious.(システム部門よ、大志を抱け)。
2013年 11月20日
参照Itpro
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